から山を押して進んで行きました。
 以前、馬を曳いて来た一筋道とはちがって、今度は、あらく[#「あらく」に傍点]沿いの林をめぐって、めぐり尽すと、そこにまた一つの風景が展開されました。
 山腹が、ここへ来るとまたカーヴのなだらか味を見せまして、雄偉なる胆吹の山容そのものの大観はさして動かないけれども、裾の趣は頓《とみ》に一変してきました。
 右の三合目ばかりの麓は、一帯に松柏がこんもりと茂る風情、左へかけて屋の棟が林の中に幾つか点々として見える。そのつづき、弥高《いやたか》から姉川《あねがわ》の方へ流れる尾根を後ろにして宏大な屋敷あと、城跡と言った方がよいかもしれないほどの構えがあることを、明らかに見つけられるような地点に立ちました。
 ゆらりゆらりと山を押しながら行くお銀様の目は、この宏大なる屋敷あと乃至《ないし》城あとに向って、足は爪先あがりに上って行くのであります。
 その時、往手《ゆくて》の林の中から、いかにもあわただしく転がり出して、こけつまろびつ、こちらへ向って走り来《きた》る二つの物体がありました。
 不意ではあったけれど、こちらは驚くほどのことはありません。まさしくこの
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