わりをうろつきはじめました。
会所のまわりを、塀《へい》の隅っこのところまで行ってまた逆戻りをしたり、溝《みぞ》の中に柿の種子が落ちていたり手鞠《てまり》がころげ込んだりしているのを見たりなんぞして、行きつ戻りつしているうちに、まだ埒《らち》があかない。こんどは表通りを少し遠っ走りして、湖の水の見えるところまで行って引返そうとする時、そこに高札場があって、幾つもの札のかけてあるのを見つけました。その高札を片っ端から読んでみますと、その真中の一番大きいのに、次の如く書いてありました。
[#ここから1字下げ]
「定
何事によらず、よろしからざることに百姓大勢申合せ候を、とたう[#「とたう」に傍点]ととなへ、とたうして、しひて願事企てるを、がうそ[#「がうそ」に傍点]と言ひ、あるひは申合せ、村方立退候を、てうさん[#「てうさん」に傍点]と申し、他村にかぎらず、早々其筋の役所に申出づべし、御褒美として、
とたうの訴人《そにん》 銀百枚
がうその訴人 同断
てうさんの訴人 同断
右之通下され、その品により帯刀苗字も御免あるべき間、たとひ一旦同類になるとも、発言いたし候ものの名前
前へ
次へ
全208ページ中139ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング