、いっこう苦になりゃへん、あの山の山元にはキャアゾウ[#「キャアゾウ」に傍点]たらいう親分はんがいやはって、そないな大根おろしのかきおろしを、なんぼでも背負いたがっていなはるさかい」
 つまり、胆吹山の山元には、キャアゾウ[#「キャアゾウ」に傍点]という親分がいて、こういう大根おろしを幾駄でも、嬉しがって負いたがっているということになる。
 これを聞いて、三ぴん一同が、いよいよ安直の用意周到なるのに敬服しました。

         十六

 そういうこととは露知らぬ道庵先生は、お角さんから差廻された米友代りの一僕、庄公を召しつれて、ほくほくと柏原の宿《しゅく》を通りかかりました。
 胆吹へ登るものとすれば、ことにお銀様や米友が植民地を構えた上平寺の方面から登るとすれば、関ヶ原からでは、この本道へ出ないで、小関から北国街道へ出るのが順ですけれども、胆吹へ登るものが必ずしもその道をとらなければならないという約束はなく、柏原からでも、長岡からでも、幾多の登山路はあるのです。春照村《しゅんしょうむら》の上野からする登山本路をとるとすれば、ここへ出るのも決して脱線ではありませんが、とにかく、道
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