宮本武蔵でも、鎮西《ちんぜい》八郎でも一たまりもない、まして道庵先生の如きに於ては、直さんに会っちゃ、ほんとうにかなわないという賞讃をこめたのかも知れません。
 そうすると、プロ亀が、
「安直先生のように、そう調子を高くおっしゃっては、一般人に対して御損じゃございませんか」
「わて阪者やかて、みみっちいことばかり考えていやへん、損やかて、得やかて、大御所気取りしやはって、関東から攻め上りなはる十八文はん向うに廻して渡り合うは、きれもん、この安直のほかにありゃへんがな。三ぴんはん、しっかと頼んまっせ、ちゃア」
「オット合点《がってん》」
 そこで、この三ぴんの円卓会議が胆吹山征伐進軍の軍議となり、評議が熟すると、いざ出陣ということになりました。
 いざ出陣となると、三ぴんの連中を前にして、安直先生がおびただしく大根おろしをかきおろしはじめました。どういうつもりか、一心不乱に大根おろしをかきおろして、とうとう桶に十三杯もかきおろしてしまいました。
 それを見ていた三ぴん一同が、その精力の非凡なるに感心し、この分でかきおろせば一年に六七千本の大根をかきおろすことができるだろうと眼をみはって、
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