れを見直すと、それは、ボロボロの風呂敷包にくるんであるとはいえ、中で、生きて動く気色がむくむくと見えました。
「お見せなさい」
「この通りでがす」
 彼等は、自慢半分に、風呂敷の結び目を少しはだけて見せると、まだ嘴《くちばし》の黄色くなりかけている一箇の猛禽雛が、幼いながらも猛然として、人を射るの眼を光らして、跳り立とうとしています。
「まあ、どこで捕りました」
「硯石《すずりいし》の崖のてっぺんで見つけたから、仕事を休んでとっつかまえましたが、いやはや、これがために一日つぶしてしまった上、命拾いでござんした。ごらんなさい、この通り二人とも、からだじゅう傷だらけ、高い崖から転がり落ちてすんでのことに生命《いのち》を粉にするところでござんしたよ」
「珍しいものですね」
「鷲の子なんぞは、なかなか捕まえられるもんじゃござんせん、親鳥にでも見つかろうものなら、今度はあの爪で上の方へ……命がけの仕事なんでがすが、でも、親鳥は留守でござんしてなあ」
「そうして、お前さんたち、せっかくつかまえたこの鳥を、これからどうしようというの」
「さあ――」
と二人が、お銀様から尋ねられて、改めて面《かお》を見合わせましたが、
「うちへ連れて行って飼って置きてえと思うんでがす」
「そうですか、餌《えさ》には何をやるつもり?」
と、お銀様から畳みかけられて、二人はまた面を見合わせてしまい、
「さあ――」
「何を食べさせて置きますか」
「そうだなあ――何をったって、こちとらの身分じゃ、特別のものをあてがうわけにもいきましねえから、粟《あわ》や稗《ひえ》を、わしらのうちとら並みに食べさせて、育ててみてえと思っとるでがすが」
「それは、いけません」
と、お銀様は二人の農夫の言い分を頭から蹴散らしたものだから、彼等も眼を白黒させ、
「いけませんかねえ」
「鷲という鳥は、粟や稗なんぞを食べやしません」
「そうですかね」
「そうだともさ」
「では、何を食べさせたらよろしうござんしょうね」
 彼等はお銀様に向って憐みを乞うもののように教えを仰がんとする体《てい》です。彼等は、ただ、この猛禽の子を見つけ出したという興味と、それを捕えることの緊張さから、正当の職業である薬草取りの一日の業を抛擲《ほうてき》してしまって、生命《いのち》がけでこの一羽を巣の中から捕獲して来は来たものの、その前後の処分法については、
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