ずここへ帰ってまいります、帰るからには、何とか目鼻を明けてごらんに入れたいと思います、七日とお約束をいたしやしょう、お奉行様」
 兵助がこう言って、ニッタリと笑いました。
 それからこの兵助が、松島の観瀾亭のお庭へ姿を現わしたのは、その翌日のことであります。
 事の順に戻って、この兵助なるものの身柄を、一応説明しておく必要がありましょう。
 今の自らの物語にもある通り、この城下生れの者で、父は仏師です。兵助、生れて身軽で、力があって、いつ習うともなく武芸が優れてきて、それが仇となって、今日までに幾多の悪事を重ね、数百の子分を持っている――
 これが今、町奉行の内命を受けて、特に刑中の身を以て、観瀾亭から瑞巌寺《ずいがんじ》方面へ派遣されました。
 これが裏を返すと、すなわち、仙台の仏兵助《ほとけひょうすけ》と、青梅の裏宿七兵衛《うらじゅくしちべえ》との取組みとなるのです。

         十七

 お松はその翌日、新月楼という宿屋から、瑞巌寺の庫裡《くり》へ、田山白雲画伯のためのお弁当を運びました。
 白雲先生へという名題《なだい》で、実は、臥竜梅《がりゅうばい》のうつろの中が目的
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