ら――手際よく要領をのみこませ、そうして、田山白雲が、その翌日お松を連れて、また舟で松島へ渡りました。
松島の風景を写さんがために逗留《とうりゅう》の画家が、当座の女中として、雇い入れたようにして宿をとり、白雲は駒井の紹介で、瑞巌寺の典竜老師を訪れたものです。
松島の宿に着いたお松も、わからない心持でいっぱいです。ただ当分、七兵衛おじさんのためにこっそりと食物を運んであげる役目――宵々毎に瑞巌寺の臥竜梅のうつろ[#「うつろ」に傍点]へ、その使命だけを固く心にかけましたが、それにしてもどうもなんだか、牢屋へ入れられている人に差入物にでも行くような気持がして――愚図愚図していれば、七兵衛おじさんはお仕置に会って斬られでもしてしまうのではないか知ら、というような不安が、何とはなしにこみ上げて来るのです。
白雲はその翌日から、瑞巌寺へ日参して絵を描くことになったのは幸い――そうしてその夕暮、お松は絵の先生を迎えに行くふりをして、臥竜梅のうつろ[#「うつろ」に傍点]の使命の第一日を首尾よく果しました。
十六
これとほぼ時を同じうして、仙台の町奉行|丹野元之丞《たんの
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