婦人も珍しいとはしないが、婦人にして漢詩をよくするという婦人は極めて珍しい。
それにしても、ただ単なる奥様芸で、覚束なくも平仄《ひょうそく》を合わせてみるだけの芸当だろうとタカをくくって見ると、なかなかどうして、頼山陽を悩ませた細香《さいこう》女史や星巌《せいがん》夫人、紅蘭《こうらん》女史あたりに比べて、優るとも劣るところはない、その上に稀れなる美人で、客を愛し、風流の旅を好む、以前は江戸に出て、塾を開いて帷《い》を下ろして子弟を教えていたが、今は仙台に帰っているはず、ともかくも、あれをたずねてみてごらん――全く才貌兼備、才の方は別としても、思いがけないほど美しい婦人だから、その用心をして――
ははあ、ほかならぬこの拙者に向って、左様、然《しか》るべき才貌兼備の婦人をたずねよとは少々キマリが悪いと、白雲はがらにもない羞恥心《しゅうちしん》を少しく起しながら、とにかく、名前だけも覚えて置くことだと、更に念を押すと、栄翁が答えて、姓は高橋――名は玉蕉――家は仙台の大町というのへ行って、それと尋ねれば当らずといえども遠からず。
かくて、福島に逗留二日。
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