持って来ると言ったが、そのみやげたるや」
ここまで来た時に、あわただしくこの部屋の前に立ったのが、清澄の茂太郎でありました。
「田山先生――」
「やあ、茂坊か」
「入ってもようござんすか」
「お入りなさい」
と許諾を与えたのは、駒井甚三郎でした。
そこで室内に走り込んだ清澄の茂太郎が、まず田山先生に向って問いかけたのは、次の言葉であります。
「田山先生、七兵衛おやじはどうしたの?」
「今もそれを話していたところだ、おっつけこれへ、おみやげ持ってやって来る」
「そうか知ら――あたいは、どうも、あの七兵衛おやじはもう、ここへ来られないように思われてならない」
「どうして?」
それを聞き咎《とが》めたのは白雲でしたが、さっと面《かお》の色を失ったのはお松でした。
「どうしてって……」
茂太郎は、むずかるような声で、
「あたいはどうも、七兵衛おやじが怪我をしたように思われてならない」
「怪我!」
「怪我ならいいが、もしかして、縛られてしまやしないかと……」
「何を言うのです、茂ちゃん」
お松がたまりかねてたしなめると、茂太郎は、
「どうしても、あの七兵衛おやじの身の上に、変ったことが
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