》でございます」
「うむ、そうか」
白雲がまたここで、そっくり[#「そっくり」に傍点]返らざるを得ません。
そうか、そんならそうと、なぜ早く言わないのだ。それにしても、いよいよ変な老爺だ、いったい、いつ、どうして、この間《ま》に、誰に案内されて入って来たのだ――というその咎《とが》め立ても、こうなっては気が利《き》かない。そこを先方が、いよいよいけ図々しく喋《しゃべ》りました、
「夜分、あんまり遅くなりましたものでございますから――いえ、その実は、こんなに遅く参ったのではございませんが、先生が、あの御婦人様と、あんまりお話に身が入っておいででございましたから、ついあの時に、御案内を申し上げる隙《すき》がございませんで、で、つい、こんなに遅く上りまして、あいすみませんことでございます」
「なに、では貴様、なにか、拙者がこの家の女主人と対話をしていた時分に来ていたのか」
「はい――あんまりお話が持てておいでなさいますから、お邪魔になってもなにと存じまして、いったん出直して、また上りました」
「ふーむ」
白雲は、そこにうずくまっている物のかたまりを、うんと睨《にら》みつけていました。遅
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