ちほど、ゆっくりお話し申し上げましょう。今晩、先生は、どちらへお泊りでいらっしゃいますか」
「わしかい――まだどこといって、宿はきまらないが、とりあえず、大町の高橋玉蕉という女の学者のところをたずねて参るつもりだ」
「大町の高橋先生とおっしゃいますか」
「そうだ、女で有名な学者――それに家はなかなか金持の商家ということだから、そこをたずねて来ればわかるだろう。もしまた、別に宿を取った時は、その家へ申し置くから、わかるようにして置く」
「よろしうございます、私は、只今のところ、仕事が少々|忙《せわ》しうございますから、今晩――夜分も遅くなるかも知れませんが、必ずお伺い致しますから、おかまいなく、お休みになってお待ちくださいませ」
「うむ――では」
と言っているうちに、右の蛇籠作りは、大忙しがりで、ついそこの柳の木の下へ引込んでしまい、そこで、以前の通り一心に蛇籠を編み出したものですから、白雲も、ちょっと手のつけようがなく、そのまま川原道を急いで行くと、やがて、前から来た槍の同勢と、後から来た岡っ引の連中との間にはさまれたような形になりました。
だが、別段、問題は起りません。白雲は川原道
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