た」
「ナニ、石巻――なるほど、駿河の清水港へ行こうか、仙台の石巻へ行こうかと駒井氏は常々言われていたが、して、なにかな、もはや石巻に到着しておられるのか」
「いや、それが、たしか今明日中には御無事にお船入りのはずなのでございます」
「それはそれは――で、なにかな、あの番所に居候の連中は、みんな同じ船に乗込んで来たのか」
「はい、一人残らず、茂太郎も、金椎《キンツイ》さんも、マドロス君も、もゆるさんも――それから、お松に、登様――土地の船頭さんたち」
「おお、それはそれは――それを知らないで、このまま房州へ舞い戻ろうものなら、飛んだあとの祭りを見せられるところであった、よくお前さん、知らせておくんなすった」
「お話し申し上げると長うございますが……」
 この時、遥かにみとおしのきく河原の両岸を見ると、こしかたの方からは、さいぜん飯屋へ出張したらしい岡っ引が先に立って、村役人らしいのを数名|引具《ひきぐ》して、こちらへ取って返して来る様子。それからまた一方には、槍を押立てた同勢が、長町の方から物々しげにやって来る。
 それを見ると、右の蛇籠《じゃかご》作りが、多少そわそわし出して、
「の
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