国々を経巡《へめぐ》って来たことに於ては、あのマドロスさんなんぞより、遥かに世間が広いらしうございます」
「ははア、それは耳寄りな話だ」
と言って、駒井甚三郎はわれながらはずむほどに身を乗出したというのは、今もいままで思いなやんでいた当座の問題――かけがえのない船の苦労人《くろうと》、思案の果てが、いつもあの不埒《ふらち》千万なマドロスの上に落ちて来るのが苦々しい限り。ところがこのマドロスに上越すところの海の苦労人《くろうと》が、現在自分の身近くにいる! という報告を、別人ならぬお松が聞かせてくれたのだから、駒井が夢かと驚喜の色を浮ばせるのも無理はありません。
「そういう人がいるなら、早速会ってみたい、どこにいます」
「お船の船頭部屋に泊り込んで、毎日、修繕仕事を手伝わせていただいております」
「今晩もいますか」
「はい、宵のうちは乳母《ばあや》さんのお部屋へ、皆さんとよくお話しに出かけます」
「では、直ぐにここへ呼んでもらえまいか」
「今晩お会い下さいますか」
「早い方がよい、今すぐにここへ呼んで来て下さい、ここでひとつ、会いましょう」
「では行ってまいります」
お松があたふたと出
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