んでいる男があるなという印象が、なんとなく眼にうつりました。
 と同時に、こちらの瀬には、魚を捕るためのやな[#「やな」に傍点]がかけてあるのを認めました。単にそれだけのことで、川岸で、筏《いかだ》を組んだり蛇籠を編んだりすることはあたりまえの光景なのであり、川の中にやな[#「やな」に傍点]をかけて魚を捕ろうとしていることも、名取川特有の風景でもなんでもないけれども、それがなんだか、白雲の眼に、どうも特有な風物のようにうつったものですから、歩みをとどめて、このやな[#「やな」に傍点]のところまで歩いて行って見ました。
 そうして、その附近をのぞいて見ると、鮎《あゆ》がかなりにいることを発見しました。ははあ、鮎がいるな――今の飯屋で食わせたのも、焼いて乾かした鮎であった。瀬の清い、流れの早い川に鮎がいることは不思議でもなんでもない――この名取川には、特有の鮭《さけ》の子もいるということを聞いた。それよりも、名取川の名そのものと切っても切れない埋れ木というものがこの川から出るのだ――はて、鮎のほかに鮭の子はいないか。もし、その辺に埋れ木のひねったやつが頭を出してはいないか。
 そんなことで
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