なってみれば必死の格闘である。ことに気の毒なのは、この一種異様な侵入者を、ここまで追跡して来て、せっかく取抑えたかと思えば、かえって逆襲されて、一歩あやまると、自分たちの生命問題になる立場に変って、狼狽《ろうばい》しつつ、後退しつつ、必死に争っている体を見ると、白雲は気の毒でたまりません。
 白雲以外の舟を待つ人々は、事の内情も、目色、毛色も一切わからないから、どちらへどう同情していいかわからないけれども、どちらにしても、あの格闘の幕が終るまでは、われわれは舟に乗れないのだと、半ばヤケ気味に諦《あきら》めつつ、なお八分の興味をもって右のロケーションを眺めておりました。
 そのうちに、突きまくられ、追いまくられた船頭親子は、無残にも足を踏みすべらして、重なり合うように北上川の川の淵の中へ落ち込んでしまいました。
「アッ」
と、こちらの岸で見ていた一同が声をあげて、この無残な船頭親子のドン詰りに同情の叫びを挙げましたけれども、この不幸が、実はかえって力の弱い船頭親子には幸いでありました。というのは、力限り陸上で格闘を続けていた日には際限がない、際限がありとすれば、暴力に於て格段の差ある親子
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