、この川の気象を見ると、悠々として北から流れ来って西へ溯《さかのぼ》るところが、他の河川の北より出でて東海に注ぐ河相と趣を異にしている。北上の名の字面《じづら》も単純ではあるが、大きくして淋しい、または何となくこの川の川相を尽している、なんぞと字義の詮索にまで及んでみました。
白雲はそうして、のぼせきって川をながめている間に、もともとこの地点は渡頭のことで、仙台から南部へ通ずる要路でありますから、いかに北地のこととはいえ、一人、二人、三人の旅人が川岸へ集まって来るのであります。漁者《ぎょしゃ》もあれば樵者《しょうしゃ》もある、農工の人もあれば旅の巡礼もある、馬もある、駕籠《かご》もあろうというものです。それがやがての間にかなりの数にまとまって、そこで一同が誰言うとなく、ブツブツと言い出しているうちに、じれったがる声、船頭を呼ぶ声が口々を突いて出でたので、それとは少し離れて高いところになっている地点で、右の如く風景をほしいままにし、空想を食物としていた白雲の耳にまで届くようになりました。
「なるほど……舟が出ない、拙者のように風景を食物として、心目を遊ばせている身とは違い、人生の必要あ
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