合わせないわけにはゆきません。
 思い合わせて見れば見るほど、あれと同じ人間の手になるのです。
 そこで、また女中を呼んで、いったい、この絵図を置いて行ったお客様てのは、どんなお客様であったか――え、え、それは、これこれ斯様《かよう》な人でござりまして、毎日毎日のように出てお歩きになりました。なんでもお江戸から船のお着きになるのを待兼ねての御様子でございました。あ、そうか、そうして年頃は、うむ、なるほど……
 それこそ七兵衛おやじに紛《まぎ》れもないと、白雲が直ちに覚りました。そうしてみると、あの道祖神の絵馬も、ますますあのおやじの仕業に違いない。なお、してみると、あの絵馬は、特に自分の筋道を慮《おもんぱか》って、そうして目印に、こちらの目につき易《やす》いようにとの親切でしたことだ。今ここで、わざわざ清澄村茂太郎の署名をした絵図を忘れて行ったのも、何かこれを我々のための合図の下心ではないか。なかなか細かいところに親切のある男だな。
 ああ、そう言えば、なるほど――何のこった、迂濶千万《うかつせんばん》、今までのことにまぎれて、それを忘れていたが、あの名取川べの蛇籠作《じゃかごづく》り
前へ 次へ
全227ページ中165ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング