岸の上からも見られるようにしておきましたから、広くもあらぬこの港の津々浦々は、総出の見物です。
それから、飛入りをうながすと、最初ははにかんでいたのが、一人やり二人やるうちに、勇気が出て、ところの名物の総ざらいがはじまったようなものです。
そこで、当日は臨時の大祭が行なわれたようなもので、船の人も楽しむと共に、土地の人々をも楽しませることができ、陽々たる和気がたなびいて、お松の考案は百%の効果をあげたという次第です。
二十四
かくてその翌日、田山白雲は一石三鳥の目的をもって、暫《しば》しの旅に立ちいづる。
しばしの旅のつもりではあるが、旅という気になってみると、またしても漂浪性の血が脈を立てて、一石三鳥の重任ある身でありながら、白雲悠々の旅心が動くに耐えないのです。
つまり、船に来てから人に逢ってみると里心がついて、この当座は、人間界の代物《しろもの》でしたけれども、ここでまたも放たれた気分になりました。放たれたといっても、誰も白雲を囚《とら》えんとしたものはないのですけれども、人事のことがあれこれと左右に群がると、どうしても旅心そのものは抑圧されてしま
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