この慰安会は船中の人だけに限らないで、せっかくのことに、この港に碇泊しているすべての船と、この港附近のあらゆる漁村に触れを廻して、参会観覧を許すということを提議して、お松が委員長で準備を進めました。
立役者《たてやくしゃ》には清澄の茂太郎というものもあれば、お角さん仕込みの江戸前の、ムクの縄ぬけ[#「ぬけ」に傍点]輪ぬけ[#「ぬけ」に傍点]の芸当というのも、ここへ持ち出して悪いということはない。その他、乳母《ばあや》、船頭さん、金椎《キンツイ》さんまでが、どんな隠し芸を持っていようともはかられぬ。お松さん自身は委員長としてのほかに、太夫元《たゆうもと》、狂言作者、舞台監督等のすべてを背負って立たなければならないが、事と次第によっては、舞台上の一役をさえ買って出なければならない都合になるかも知れぬ。
かくてその翌日――
果して当日の慰安会は、清澄の茂太郎の三番叟《さんばそう》を以てはじまりました。
田山白雲も覚束ない手つきで、手品を一席やりました。
登の乳母が三味線をひき、房州の船頭衆が唄いつ踊りつしました。
見物は船の甲板上にいっぱいに溢《あふ》れたけれども、他の船からも、
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