岡っ引が二人、川から上って来ました。
白雲も、それがたしかに岡っ引の類《たぐい》でなければならないと見て取ったし、先方でも、ジロリと白雲の方に眼をくれながら、亭主夫婦の方へよって、心安立てに問いつ語りつ始めたのは、やはり純粋の奥州語を、双方とも達者にしゃべりまくるのですから、白雲の俄《にわか》ごしらえの語学では、とうてい追っつきそうなことになく、結局、何をどう受渡しているのだか、音声の上では全く要領を得ることができませんでした。それでも身ぶりや表情によって判断すると――何か事件が起って、職務の上から、非常線を張りに来たもののようでもあり、特にこの亭主夫婦に向って、川筋の警戒を申し渡し、頼み込んでいるらしい素振りであることは、判断がつきます。
で、二人の岡っ引は、こうして純粋の奥州語を亭主夫婦と達者に取りかわしていながらも、ジロリジロリと白雲に眼をくれることは以前と少しも変らないが、こっちが存外泰然自若なのに、相当|面負《かおま》けがしているようでもあります。
しかし、お茶を飲んでしまうと、どうしても、この風来の逞《たくま》しい旅絵師のえたい[#「えたい」に傍点]にさわってみないこ
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