けいしゅう》の詩人をして舌を捲かせていることはいっこう御存じなく、例の般若《はんにゃ》の面は後生大事に小脇にかかえて、なおしきりに月に嘯《うそぶ》きながら、更に続々となんらかの感興が咽喉《のど》をついて出るのを、しばらくこらえているようでしたが、勢いこんで、
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とっても
とっても
勿体《もったい》なくて
上られえん
とっても
とっても
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右のように喚《わめ》き出したかと思うと、
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さんさ時雨《しぐれ》か
かやのの雨か
音もせで来て
ぬれかかる
とっても
とっても
勿体なくて
上られえん
とっても
とっても
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とうとう船べりで、足拍子を踏んで、片手を振り上げながら、面白おかしくおどり出してしまいました。
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とっても
とっても
勿体なくて
上られえん
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その狂態を指して田山白雲が、
「あれです――初唐の古詩をああして朗々とやり出すかと思えば、とりとめもないあのでたらめをごらんなさい、さんさ時雨を取入れたかと見ると、もう、たったいま耳食《じしょく》の
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