かく、茂太郎の破調が、ちょっと船の中を驚かせました。
「茂、静かにしろよ」
 田山白雲は、うつろ心で叱ってみたけれども、茂太郎は頓着なく、
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オイセとチョウセ
オイセとチョウセ
オイセとチョウセ
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 この即興と反芻《はんすう》とを兼ねた小天才は、この単句をどこから見つけ出したか知らないが、しきりに繰返しては小船の縁をゆすぶっている。
「茂、静かに」
 白雲が叱るけれども、この場合はあまり権威がなかったのです。それは玉蕉女史との応酬唱和の興があまりに濃厚であったから、その叱る言葉も、ついつい上の空になって、相手にはこたえないらしい。
 それを見兼ねて、物慣れた玉蕉女史介添の老婦人がさし出て来ました。
「坊ちゃん――おもしろい話をして上げますから、こちらへいらっしゃい」
と、茂太郎をあやなしにかかる。
「面白い話」
「あい」
「おばさんがおもしろい話と思っても、人が聞いては面白くないこともありますよ」
「そりゃありますがね、今おばさんがして上げようという話は、この仙台の人でなければ知らない話ですから、よそからおいでた方が聞けば面白いにきまってい
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