を蹴破って陸蒸気が通らあな、水も山もねえ空の上を走るなんぞは朝飯前の仕事でなけりゃあならねえのを、人間というやつ、何か落ちてやあしねえかと下ばっかり見て歩くもんだから、今もって鳥獣の真似《まね》もできねえんだ、津田君がそこを見てとって、一番、新手を出してくれようというのは、いいところに気がついたものだ、さすが金の鯱《しゃちほこ》が空の上へ吊し上っている名古屋ッ児だけある。
こういうような趣意で激励するのみならず、道庵が津田生の私設工場へ飛んで来て、実際を検分し、その器械の要所要所の説明を聞きながら、同時に忠告を加える要点に、侮り易《やす》からざるものがありました。あんまりふざけきって、子供だましのような激励には恐れ入らざるを得なかったが、実際、機械を見せて批評と技術の講釈に至って見ると、津田生も舌を捲くような痛いところを道庵がいちいち利《き》かせてくれるものですから、道庵先生に対する興味と尊敬をいよいよ加えてくると共に、世上すべて無理解の中にあって、かりそめにもこういう知己を得たということが、百万の味方を得たと同様な勇気になって、いちいち先生先生と道庵の意見を仰いだものですから、いっ
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