より、もう一層、軽いところがいいですね」
「では近代の鳥羽絵」
「ああなっても少しふざけ過ぎます、まあ、夜半亭と大雅堂の合《あい》の子といったようなところで、軽く刷いてみておりますがね」
「おやおや、もう制作におかかりですか」
「もう最初からとりかかっておりますよ、白骨絵巻といったようなものを目論《もくろ》んでおりましてな、この宿の冬籠りの皆さんを中心に、白骨の内外を取りまぜて、一巻の絵巻物にしつらえようと、実はひそかに下絵に取りかかっておりました」
「それはそれは、お手廻しの早いことで……さだめて結構な土産物が出来ましょう」
「只今、暇を見ては下図調べにかかっておりますが、いよいよ本図にかかりましたら、良斎先生にひとつ序文を願って、柳水宗匠に跋句《ばっく》を書いていただき、それから皆さん方に一筆ずつ賛をのせていただきたいと、こう思っております」
「ははあ、それは至極好記念でございますが、また一方から申しますと、宗舟画伯きわめてお人が悪い、さだめて我々が行住坐臥《ぎょうじゅうざが》のだらしのないところを、いちいち実写にとどめて、後世にまで抜き差しのならないことにたくんでお置きなさる、我
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