人の心を惹《ひ》くようになっているのかも知れません――予期せざる人の出入りを調べてみても、一人、二人、三人――ちょっと胸算用《むなざんよう》に余るところがありますね」
「面白いです。それが、あなた方をはじめ、みんな相当に一風流のある人だけが集まって来るような気配も面白いではありませんか。尤《もっと》も、一風流でもなかった日には、雪の山坂を分けて、これまで来られるはずはございますまいが……」
こんなことを良斎と柳水とが語り合っている時に、浴室の戸がガタリとあいて、
「お早うございます」
「いや、これは宗舟画伯」
と、二人が新来の裸虫《はだかむし》を歓迎しました、見ればこれは絵師の宗舟でした。
「両先生お揃いで……」
「いや、いい心持で今、歌と俳諧とを論じていたところです」
「どこを雪が降ると温泉にぬくもりながら、詩歌を論ずるなんぞは風流の至りです」
「それを今も言っていたところですよ」
「どうです、宗舟先生、この温泉気分は絵になりませんかな」
「ならないどころですか――絶好の画材ですよ」
「南画ですか」
「いや、南画とも違いますね」
「では、呉春張りの四条風にでも写しますかね」
「あれ
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