か、或いは左へ廻って奥州安達ヶ原の方へでもそれたものか。
ここで七兵衛は種々なる探偵眼と猟犬性を働かしてみたけれども、さっぱり効《き》き目がありませんでした。或いはこの町へかからずに間道をまわったのではないか、そうでなければこの町のいずれかに足をとめているのではないかとさえ疑われたが、とうとうもてあました七兵衛、どのみち、道草にしても大したことはあるまい、行先は陸前の松島の観瀾亭《かんらんてい》というのにあることは、小名浜の網主の家でよく確めて来たから、先廻りをしてあちらに着いて、仙台の城下でも見物しながら待っているのが上分別――と、七兵衛はついに思案を定めて、ひとり快足力に馬力をかけて磐城平を海岸にとり、北へ向って一文字に進みました。
六十九
磐城平で七兵衛を迷わしめたも道理、田山白雲は、当然行くべかりし海岸道をそれて、意外な方面に道草を食うことになっていました。
その消息は、駒井甚三郎に宛てた次の手紙を見るとよくわかります。
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「(前略)鹿島の神宮に詣《まう》で候へば、つい鹿島の洋《なだ》を外《よそ》に致し難く、すでに鹿島洋に出でて
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