たずねてみると、なおいっそう明快にその消息がわかりました。
 ここに逗留すること二日、山形の奇士と会して共に北上したということを聞いて、そのあとを追ったが、それから先が茫としてわからなくなりました。
 七兵衛は、提灯《ちょうちん》が消える前に一度パッと明るくなるような感じがしました。小名浜でハッキリしたものが、平《たいら》へ来るとさっぱりわからなくなってしまったのです。
 それというのは、小名浜までは白雲先生一人旅であったが、あれから道づれが出来たことになっている。一人旅としての目的は陸前の松島へ行くことに間違いなかったが、二人連れとなってから誘惑を蒙《こうむ》ったものらしい。そうしてその一人の奇士に誘われて、どうも松島行きの道を枉《ま》げることになってしまったらしい。
 してみると、ここでも七兵衛は亡羊の感に堪えられません。
 いずれ目的は松島にあることに相違はないと聞いているが、あの人のことは、気分本位でどう変化するかわからないし、職業本位としても、必ずしも沿道を飛脚のように行くべき責任はないのだから、さあ、この磐城平《いわきだいら》を分岐点として、海岸伝いにずんずん北へ行ったもの
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