オ嬢サン」
「ええ、いただきましょう」
「ワタシオ相伴スル、嬉シイ」
 また、色の白いふっくりしたお饅頭を、二つに割って、半分ずつ、ふたりなかよく夢中で食べ合っている。
「もゆる子サン、モウ一ツ食ベマショ」
「もう、わたしたくさん」
「モウ一ツ食ベナサルコトヨロシイ、残レバワタシ食ベル」
「では、もう一つ割って――みて下さい」
 マドロスは、三つ目の色の白いふっくりしたお饅頭を割って、またも半分ずつ二人で仲よく食べようとすると、入口のところで、いきなり、
「マドロスさん、どこにいるかと思ったら、こんなところに――やあ、お嬢さんと二人で旨《うま》そうなお饅頭を食べていやがらあ、隠れて自分たちばかり、おいしいお饅頭を食べるなんて罪だぜ」
 遠慮なく大きな声をして、二人をびっくりさせるのは、清澄の茂太郎でありました。

         六十八

 船を送り出して、自分ひとりは田山白雲のあとを追って陸路をとった七兵衛は、難なく九十九里の浜を突破して、香取、鹿島に着きました。
 たずぬる人の行方《ゆくえ》は、漠然たるようで、実はなかなか掴まえどころがありました。香取でも、鹿島でも、足あとを手繰
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