前にも言ったように掠奪と虐殺とを目的に来たのではなく、自分たちが信ずるお宗旨を自由に信じたいためだったのですね。どこにもお宗旨争いというものはあるものでしてね、イギリスにいて、自分たちの信ずる教えを正直に信じて、まじめに働いていると圧制があるものだから、そこで、堅い決心をもってこの国に来て、無人の土地を拓《ひら》こうとしたのです。自分たちが、政府や、郷国人から圧制を受けず、正直に信じ、まじめに働きたい目的からこの土地へやって来たものです。ですから、その人たちはみんな正直な、小さなお百姓、小さな商人などであって、軍《いくさ》の上手な人や、人の財を奪う野心家はなかったのです。そこで彼等は非常な刻苦勉強をして、このプリモスという附近に鍬を下ろして、自分たちの食物を正直に自分たちの汗で得ることから出立しました。そういうところに、今日のメリケンの国の強さがあるのです。その国の子孫であるペルリという人が、日本へ来るのに夥《おびただ》しい軍艦と兵隊とをつれて来たということは少し変ですが、とにかく、その国の起りは南の方とちがって、剣ではなく、鍬であったというわけであり、そうして今日になって見ると、掠奪
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