の方へやって来た人間は、最初からして種がちがいました、掠奪と虐殺を目的としてやって来たのではなかったのです」
 駒井が鞭で指し示したところは、今の北米のケープコッドの、プロビンス・タウンからプリモスのあたりであります。
「西洋の紀元でいえば千六百二十年、日本でいうと元和六年の頃でしたね、もう豊臣家は全く亡びて、徳川家の治世になっていた時分です、こちらの欧羅巴《ヨーロッパ》のイギリスという国からたった一艘《いっそう》の船が、この大陸の岸につきました、この辺がその上陸点のプリモスというところです」
 お松は駒井の指す鞭の頭から眼をはなさず、そうして、よく噂にきくイギリスという国が、こんな小さな島国かということを訝《いぶか》りながら、そこから渡って来た人のあるという大陸の、とても大きいことの比較を見比べていると、駒井はいよいよ調子よく、
「このイギリスから、その時、メー・フラワーという小さな一艘の船――小さいといっても、これよりは大きいですが、無論その時は蒸気はなくて帆前船でした、それに百人余りの人が乗って、この大西洋という大海原を六十日余りで乗りきってここへ着いたのです。その船の乗組の人は
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