。たとえば……」
 駒井は、前途の洋々たる海面を油断なく見渡しながら、諄々《じゅんじゅん》として語るには、
「今より約三百年の昔、ヨーロッパの西班牙《スペイン》という国で、最初にこのアメリカを見つけてから、コルテツとか、ピザロとかいう豪傑が押しかけて行ったのですが、これが土地を拓くつもりではなく、全く掠奪のつもりで行きました。掠奪に伴うものは虐殺でしてね、コルテツなんていう男は全くの無学に加うるに六十一歳という年であって、僅かに百八十人の人と、二十五頭の馬を持って行って、この南アメリカの秘魯《ペリウ》という国に侵入してその国を亡ぼし、その宝をみんな奪ってしまったのです。そうして西班牙では五十年間に数億の財宝を奪い、四千万の土人を殺したというから、驚くではありませんか」
「四千万て、たいした人数でございましょうね」
「口でこそ四千万だが、今の日本の国の老幼男女のすべてを合わせても四千万にはなりません。そのほかに生捕って来て奴隷に売った数はいくらあるか知れません。そういうことをして荒したのですから、この土地も拓けません、本国も悪銭身につかずで、決して栄えはしなかったのです。ところが、この北
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