へやって来て、日本中の眠りをさましましたペルリという海軍大将は、この国の、この部分から来たのですが、日本よりずっと国は新しいくせに、ずんずん開けています。それに引きかえて、この南亜米利加の方は存外開けないのです。南|亜米利加《アメリカ》も土地は肥え、気候もいいのだが、北アメリカがずんずん開けるのに、南がそのわりでないのは、一方は剣や大砲でおどかしたおかげであり、一方は鋤《すき》と鍬《くわ》を持って行って開いたからです。つまり今日のメリケンすなわち北アメリカという国を開いたのは、剣と鉄砲の力ではなく、鋤と鍬との力なのです。剣をもって開いた土地は剣で亡びると言います、それに反して、鋤と鍬で開いた土地は、永久の宝を開くわけですからね。私たちは国を開くのに、なるべく剣と鉄砲とを避けなければならないと思います」
駒井の弁は熱を帯びて、その理想を説くのは、ただにお松を相手にしているのみとは思われません。
六十六
「剣をもって国を取りに行くのは、戦争の種を蒔《ま》きに行くようなものですけれど、鍬をもって土地を拓《ひら》きに行くのは、平和の実を収穫《とりいれ》に行くのと同じです
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