りして行けば、先方でも驚いて警戒するだろうが、こうして漂いつけば、かえって渡る世間に鬼はなしという道理で、鬼ヶ島へ漂いついたにしたところが珍しがってくれるだろうと思う。もし、また、全く人のいないところへ着けば、そこに鍬《くわ》を下ろしはじめて、我々が開国の先祖となって働くのじゃ」
「それはいいお考えでございます、どうかして嫌われない土地か、人のいない島へ着きたいものでございますが、もし日本のように尊王攘夷で、外国の人と見れば打ち払えという国へ着いては大変でございます」
「いや、日本人だって、そう無茶に外国人を打ち払いはしない、外国と交際をしない国になっているところへ、先方が、軍艦や大砲で来るから、一時混乱しているまでのことだ。尋常に来た漂流船には、食料や水を与えていたわって帰すことになっている。だから我々は、軍艦や大砲の代りに、鍬と鋤《すき》を持って行くつもりです」
と言って、駒井甚三郎は、世界地図の西半球の部分の、大きな二つの陸地続きを鞭で指し示して言いました、
「これが北|亜米利加《アメリカ》と、南亜米利加とです。今、日本人がメリケンといって怖れている国。嘉永六年にはじめて浦賀の港
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