みんなそう人の国ばかり取りたがるものでございましょうかねえ」
「いや、外国人だとて、好んで人の国を取りたがるわけではなかろうが、未開の国を通って歩いて、それを開いて自分のものにしようとするのは人情の自然ですからね。すると土着の人がそれを好まないで、敵対の色を現わすのも人情だから、そこで、戦争とか、侵略とかいうものが始まるのです。日本も今、その手にかかろうとしているが、日本は日本として決して野蛮国でも、未開国でもない、ただ暫く国として眠っていたばかりなのですから、そうやすやすと外国人の手には乗りません」
「日本が取られてしまうようなことはございますまいね」
「そんなことはない、日本は二千五百年来鍛えられている国だから、取られるようなことはないが、しかし無用の争いはしたくないものだ、無用の争いをする暇を以て、新天地を開拓することにしたいものだ、世界は狭いとはいえ、まだまだ至るところに沃野《よくや》が待っている」
「けれども、殿様、このお船だけで知らぬ外国へ行けば、かえってわたしたちが、その土地の人に殺されてしまうようなことはございますまいか」
「それはね、我々が大砲をのせたり、軍艦に乗った
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