とを感ぜずにはおられません。
 船長室には種々の掛図や機具があるほかに、最も大きなる世界の地図が掲げてあります。
 話題のついでにはいつもこの世界地図が有力なくさびを成さないということはありません。
 今も駒井はこの地図に就いて、お松に向ってこんなことを話しているのです、
「年々人は殖《ふ》えてゆきます、陸地は少しも殖えません、今はまだ世界に空地がいくらもありますけれど、人間の殖える勢いはすばらしいものだから、いつか土地の争いが起るにきまっている、国と国との争いというものも、つまりはそこから起るのです。我々はどうかして戦争のない国へ行きたい、いや、どうかして戦争のない国を作りたいものです」
「本当でございます、相助けて行かなければならないはずの人間が、殺し合うなんてどう考えてもいいことではありません」
「いい事ではないが、弱くしていると国をとられてしまうから、勢い強くならなければならん、それがために、国はいつも戦争の準備をしていなければならないのです。今、日本が乱れかかっているのも、やはり、外国のために取られはしないか、取られてはならない、という心配が基なのです」
「外国というものは、
前へ 次へ
全433ページ中409ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング