やじが先に
同じところへ着いて待ってるか
その二つのうちの
いずれかの一つなのだ
だが、船には
天候というものがある
それからまた
七兵衛おやじは七兵衛おやじで
田山先生を見つけなければならぬ義務がある

七兵衛おやじは
どうかして田山先生を
見つけ出して
一緒に石巻へ
連れて行ってあげたいと思います

だけれども
田山先生のあとを追うのは
白雲を掴むようなものですから
首尾よく見つけ出したらお慰み……
ヒュー
[#ここで字下げ終わり]

 ここまで歌い来《きた》った茂太郎が、急に歌をやめて、ヒューと口笛を一つ鳴らしました。
 いつか茂太郎の手に、一つの海鳥が抱かれていました。
「マドロスさん、こりゃ何だい、この鳥は何だか知っているかい、アルバトロスの雛《ひな》じゃあるまいね」
「海猫《うみねこ》!」
と高く叫んだのは、マドロスの声ではありませんでした。

         六十五

 駒井甚三郎は今、お松に於て、最もよき秘書を兼ねての助手を得ました。
 その前後から、お松は船長附専務のようになって、絶えず駒井のために働き、また同時に自分を教育することになったのは、どちらにとっても幸い
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