。ところが海となると、二日や、三日や、一月や、半年、こうして歩いても突き当るところがないのです」
「海の広さは、陸地のおおよそ何倍ぐらいあるのでございます」
「それは三倍以上あります」
「それでは、この海いっぱいになって、海の洪水が出て来た時は、陸地がみんな沈んでしまいはしないでしょうか」
「いや、そんな心配はありません」
「でも、陸地の河という河は、みんな海に出るのではございませんか、それが世界中に雨が降りつづいた時なんぞは、いつ海がいっぱいになるかわかりません」
「いや、川は溢《あふ》れるということがあるが、海には溢れるということはないのです。水という水がみんな海へ集まるにしても、またこの広い海の表を、この太陽が絶えず照らして、水を蒸発させてしまいます。つまり、あの洗濯物を竿にかけて置くと、いつのまにか水気がなくなってしまいましょう、あの通り、この太陽の光が海の表から絶えず水を吸いあげていますから、決して海は溢れるということはありません」
「では、その吸い上げた海の水分はどうなりますか」
「それはまた雲となり、霧となり、雨となって、下に落ちて海へ戻って来ます。つまり、そういうふうに
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