わざ遠くを走らせているのです」
 小骨を抜いてお肴《さかな》を食べさせるような説明ぶりですから、お松もなるほどと感じ入っていると、駒井がつづいて、
「ですが、これが仙台領へ入ると安心なわけがあります。石巻の木野という人が、仙台の船を預かっていて、あれは、わたしと同学だから、仙台領へ行くまでに故障を起しさえしなければ占めたものです、この分なら、申し分なく目的を遂げられることと思う」
 こう言って、駒井は片手を伸ばして、座右にあった遠眼鏡を取りあげ、
「これでひとつ見てごらんなさい、雲だと見えるところに陸があるかも知れません、あの鳥は知っていましょう、茂太郎がお馴染《なじみ》のアルバトロスというやつです」
と、お松の前にその遠眼鏡をつきつけました。

         六十三

「大へん近く見えますこと、あのアルバトロスなんぞも……それにしても、どこもかしこもみんな海でございます、海というものはこうも広いものでございましょうか」
「それは広いですとも、世界の陸地をみんな合わせても、海の広さに遥かに及ばない」
「全く見とおしがつきません、遠眼鏡で見てさえこれなんでございますもの」
「どうして
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