頭上の黒板に、絵とも字ともつかない妙なものを書きました。
[#ここから2字下げ]









[#ここで字下げ終わり]
 これだけの文字を横の方から持って行って白墨で書いて、
[#ここから2字下げ]
ワン
ツー
スリー
フォーア
ファイヴ
シキス
セヴン
エイト
ナイン
[#ここで字下げ終わり]
 それを擂粉木《すりこぎ》のような棒で、いちいちコツコツと叩きながら一通り読み立て、
「サア、茂ツァン、読ンデミナサイ」
と言って1を指すと、茂太郎は勢いよく、
「棒!」
と大声で言いました。
「棒デアリマセン、ワンデス」
「犬も歩けば棒に当るから、ワンも棒も同じことです」
「茂ツァン、マジメニナルヨロシイ。次ニコレハ?」
 マドロス君が今度は8を指すと、茂太郎は、
「瓢箪《ひようたん》!」
「イケマセン、瓢箪チガウ、エイト、日本ノ八デス。コレハ」
 マドロスがその次に6を指すと、茂太郎は、
「鼻!」
「マタ違イマス、鼻イケマセン、シキス、日本ノ六ノ字デス。サア、皆サン、イッショニ読ミマショウ」
 かくて、マドロスの音頭で、お松も、乳母も、茂太郎も、金椎だけは別、ワン、
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