のは、これだけの面《かお》ぶれのようです。駒井甚三郎がいないのは、これは船長としての職務もあり、職務以外の研究もあるし、そのほか、機関方、船大工連もここには見えないのは、それぞれ手放せない仕事の方面を持っているから当然のことではあるけれども、兵部の娘がいないことは、物足りないようです――でも、それも船酔いで引籠《ひきこも》っているのだと聞いてみれば、さのみ心配はなく、とにかく、これだけが打揃ってメーンマストを囲んだというよりは、そのメーンマストにはマドロス氏が寄りかかって、頭上に黒板を吊しているのだから、マドロス君を囲んでこれらの同勢が、何か問題を授かりつつあるようにも見えます。
 事実もまたそうなのです――マドロス君は今これらの連中を前にして、学問を授けているところでありました。学問を授けるといっても、このウスノロ氏は、そう大して人の師たるに足る教養があるというわけではないことは分っていますが、マドロスがマドロスであるだけまた、前に控えた連中が、いずれも女子供としての、海の初心者であるということによって、マドロス氏に教えを乞うべきものが多々あるのはやむを得ません。
 マドロス君は今、
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