ものでもあり、こんな女には、いっそ、これからの凄まじい世界を見せてやることが薬になるか、ならないか、それはわからないが、純な少女の空想に従って、白山の山高くも登るべかりし身が、こういう女を道しるべとして、山の飛騨の国をこれよりまたみずほの実る美濃の国に追い出され、またも涯《かぎ》りなく四通八達のところへ投げ出されねばならなくなった机竜之助というものの運命の悪戯《いたずら》のほども、いいかげんにしなければならぬ。
 美濃の金山は、美濃とはいっても飛騨谷の一区劃で、それでまた飛騨とはおのずから天地を別にしているような世界であります。そこへ着いた前日に、果して黒川屋のおかみさんが予想した通りの雨でありました。
 黒川屋の面《かお》や、本願寺高山御坊の名がきいて、ここの本陣で雨の日夜をしめやかな宿りについた二人はいかに。
 お蘭はここに着いて、はじめて竜之助の目の見えない人であることを知りました。
 眼の見えない人であることを知ると共に、この人がいい男であることを見てしまいました。
 いい男というのは、どういう意味にとるべきかは知らない。本来が机竜之助という男は美男子であったか、悪男子であった
前へ 次へ
全433ページ中369ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング