手癖の悪い、そのくせ、手の利いたことは日本一といってもいいくらいの剣術使いだそうですから」
それより以上は、やっぱり人を高山にやって調べさせるよりほかはない。
おかみさんは、その気持になりましたが、何はともあれ、このおかみさんにだけは後難のかからないようにしたいものです。
五十七
この際、机竜之助とお蘭の二人が、無事に飛騨の国を抜け出して、美濃の金山の本陣に着いてしまったのは、僥倖《ぎょうこう》といえば僥倖ですが、それは一に黒川屋のおかみさんの侠気と、それに伴う心尽しの甲斐でなければなりません。
二人を無事にここまで落ち延びさせることを得せしめた黒川屋のおかみさんの働きは、善事であったか、悪事であったか、それはわかりませんが、その動機としては、あのおかみさんの功徳《くどく》を思わなければなりません。自然あの人には一切の後難を及ぼしたくないというのは人情です。
それはそれとして、ともかくもこうして国一つ越してしまった二人の悪縁はいったいこれからどうなるのだ、お蘭というぽっと出、この物語に於てはまだほんのぽっと出に過ぎない淫婦のこれらの運命は、自業自得という
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