「お代官様が殺されたとは、本当ですか。そうして下手人が捕まった? それも本当ですか。いったいそれは何者なの?」
「それは、おかみさん、今朝になって、捕まってしまいました、浪人者でございます、なんでも越中の者で、仏頂寺弥助という浪人と、それからもう一人、丸山なんとかというその連れの書生と、二人だそうでございます」
「その二人っきりですか」
「へえ、その二人で、お代官をやったのだそうでございます、丸山の方はさほどではありませんが、仏頂寺というのは、トテモ腕の利《き》いた浪人者だそうでございますよ」
「そのほかには仲間はないのですか」
「え、え、そのほかにはございませんそうでございます」
 おかみさんはそれを聞いて、熱湯を呑んでいるような胸をやっと撫でおろしました。
 いずれにしても、この下手人とか、犯人とか、嫌疑者とかいうものに、お蘭の名が加わっていないのがよろしい。ことに高山でつかまって浪人者だということになってみれば、火元は少し遠いようだ――でも、
「確かに罪人はそれときまったのですか」
「え、それはもう疑いがございませんそうで、前にも時々、お代官をおどしに来たそうでございます、とても
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