初置据えられたままの位置で駕籠の中に納まりきってしまいました。棒鼻の提灯の蝋燭はまだ六分の寿命を保ち、その炎の色も、光も、たしかなものでした。
果して間もなくこれへ舞い戻った仏頂寺弥助と丸山勇仙――感心にも約束の通り、四人の人夫をかり集めて来ました。
「いや、これはさだめしお待遠いことでござったろうな、我々のついした咎《とが》めが利《き》き過ぎた、御迷惑をお察し申した故に、久々野の外《はず》れへ参り、人を四人だけかり催してまいったによって、御安心なさい」
それは仏頂寺の声で、こちらは駕籠の中から、
「それはそれは御苦労の儀でござった、しからばせっかくの好意に任せて、このまま御無礼を致します」
竜之助の返事右の通り。
「ずいぶん心置きなく。身共らは、これより少々まだ心残りがござる故に高山まで引返し申す、御無事に」
「御免あれ」
こう言い捨てて仏頂寺、丸山は、煙の如く闇の中をすり抜けて、高山方面へ戻り行くもののようです。
あとで、駕籠屋に向ってお蘭が駕籠の中から言いました、
「下呂の湯までずっと通したいのですが、途中、小坂の問屋へちょっと寄って下さい、頼みます」
「承知いたしまし
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