お客様にお聞き下さいまし」
「ナニ、乗り手に聞けというのか、貴様たちは行先を知らんのか」
「存じませんので」
「は、は、は、おおよそ、行先を言わないで駕籠に乗る奴もあるまい、行先を聞かないで、駕籠に乗せる奴もあるまいではないか。のう、丸山、行先を知らさずに飛ばす駕籠は確かに怪しい旅の者と認めて異議はあるまい」
「いかにも怪しい」
立ち塞がった二人の声に聞覚えのあるのも道理、前なる逞しいのは仏頂寺弥助で、後ろなる書生は丸山勇仙でした。
この二人、先日は越中街道の道を尋ねながら、ここ宮川の岸をふらふらしていたが、いまだにまだ、こんなところを彷徨《ほうこう》している。亡者共だから是非もあるまいが、なんで、天下の往来を行く乗物を遮《さえぎ》るのだ――窮して濫《らん》する小人の習い――夜盗追剥稼ぎでもはじめたかな。まさか二人ともまだそこまでは堕落すまい。
「わしらあ、存じません、駕籠ん中のお客さんに聞いてくださんせ」
四人の駕籠屋どもは、申し合わせたように同音にこう言い捨てるや、脱兎《だっと》の如く逃げ出しました。
逃げ出した方向は、もと来た方をめざしたのでしょうが、前後が動顛していたも
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