それは、無明薫習《むみょうくんじゅう》ニ依ッテ起ス所ノ識《しき》トハ、凡夫ノ能《よ》ク知ルトコロニ非《あら》ズ、また、二乗ノ智恵ノ覚スル所ニ非ズ、謂《いわ》ク、菩薩ニ依ッテ初ノ正信ヨリ発心観察シ、若《も》シ法身ヲ証スレバ少分知ルコトヲ得、乃至菩薩|究竟地《くきょうち》ニモ尽《ことごと》ク知ルコト能ワズ、唯《ただ》仏ノミ窮了ス――とあるそれでございます、これが即ち真如、無明、梨耶、三体一味の帰結なのでございます」
その時、池田良斎が、うなだれながら手を挙げて、
「いや、少し待って下さい弁信さん、あなたの言うことを一々ついて行ってみたが、もうちょっと追いきれなくなりましたが、しかし、結論はやっぱりわからないところはどうしても分らない、凡夫や二乗にはわからない、菩薩でもわからないところがある、仏にならなければ……ということになってしまっているようですね」
「もう一応お聞き下さいまし、いかにも只今の御文章によりますると、凡夫二乗のやからのとうてい歯のたつところではない、菩薩の境涯でさえもやっとわかるかわからないか、所詮《しょせん》仏如来そのものだけが一切を御窮尽あそばす、とこういうのでござい
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