は無しと言い、神主様は、罪という罪はあらじとおっしゃる、大変な相違ですね。少なくとも有ると無いとの相違ですが、でも拙者としては、あなた方のどっちにも服することのできないのが残念でござる」
 神主はそれを軽く受けて、
「これほどはっきりした天地生き通しの光がわからないと言われるのが、すなわち闇じゃ。光はこの通り輝きわたっているのに、それを光と見えんのじゃ」
「けれども神主様……」
 池田良斎が続けて言いました。
「平田篤胤《ひらたあつたね》の俗神道大意に、真如《しんによ》ノ無明《むみやう》ハ生ズルトイフモイトイト心得ズ、真如ナラムニハ無明ハ生ズマジキコトナルニ、何ニシテ生ズルカ、其理コソ聞カマホシケレ……とあったのを覚えていますが、そこですね、弁信さんのおっしゃるように、三千世界が仏菩薩のお慈悲ということならば、罪悪の出所が無く、神主様は物みなは天照大神のお光とおっしゃるけれども、夜は闇になり、罪もけがれも、病気もあって、人が現に悩んでいます、やっぱり平田|大人《うし》と同様に、拙者にも、真如から無明の出所がわからない、生き通しのお光から闇とけがれが出るという理がわかりません」
 神主様
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