、罪を持たずに生きている者はございません、もろもろの災難はみな、人間の増上慢心を砕く仏菩薩のお慈悲の力なんでございます」
弁信法師が息をもつかず答えてのけると、鐙小屋の神主が、それに横槍を入れました、
「いやいや、罪なんていうものは元来無いものなんですよ、人間界にもどこにも罪なんていうものはありませんよ。生き通しのお光があるばかりじゃ、天照大神の御分身が充ち満ちているばかりじゃ。天照大神はすなわち日の御神じゃ、八百万神《やおよろずのかみ》をはじめ、我々人間に至るまで、大もとはみな天照大神のお光の御分身じゃ、天照大神が万物の親神で、その御陽気が天地の間に充ち渡り、充ち渡り、それによって一切万物が光明温暖のうちに生き育てられるのじゃ。このお光を受けさえ致せば罪という罪、けがれというけがれ、病という病は、みんな祓《はら》い清めらるるにきまったものじゃ、『罪という罪、咎という咎はあらじ』と中臣《なかとみ》のお祓いにもござる、物という物、事という事が有難いお光ばかりの世界なのでござるよ」
それを聞いて良斎は、けげんな面《かお》をして、
「これは大変な相違です、弁信さんは、一人として罪なきもの
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