ら聞いたことがございまして、山のうちには、現在火を噴いている山と、昔は火を噴いたが、今は火を噴かない山と、今こそ火を噴かないが、またいつ噴き出すかわからない山とがあるようでございますね」
「それはありますよ、現に、わたしが諸国を実地に見たところでも……」
神主がなお続けようとしたところへ、また浴室の戸があいて、池田良斎が裸体で手拭をさげてやって来ました。
五十
「湯加減はいかがですか……弁信さん、ようやくお目が醒めたようですね」
「はい、はい、良斎先生でございましたね。おかげさまで、ぐっすり三日の間というもの心置きなく休ませていただいて、ようやく只今、眼が醒めましたところでございます」
「食事はどうしました、いくらなんでも三日の間、飲まず食わず寝たんではお腹が空いたでしょう」
「ええええ、それはなんでございます、休ませていただく前にお蕎麦《そば》の粉を用意しておりましたから、これを枕許へ置いて食事に換えました」
「そうですか。で、起きる早々、こんなに長くお湯につかっていていいのですか」
「鐙小屋の神主様に、いろいろとお話を聞かせていただいておりましたから、時の経
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