まり大日如来の御垂迹《ごすいじゃく》でございましょうな」
「は、は、は、左様でござらぬ、朝日権現は、すなわち天照大神の御分身じゃ」
「天照大神はすなわち大日如来でいらせられると、たしか行基菩薩も左様に仰せでございました」
「は、は、は、お前さんのは、それは両部というものでしてな、わしはいただきませんよ」
「左様でございますか、しかし……」
 弁信法師が、なお何をか続けようとした時に、ズドーンと大鉄槌を谷底へ落したような音がしましたので、
「たいそう、今日は山鳴りがいたします」
 今になって山鳴りがいたしますでもあるまいが、ここではじめて弁信の頭が、天変地異の方へ向いて来たようです。
「今日ではありませんよ、昨日からですよ。弁信さん、お前さんには分るまいが、この上の方に硫黄岳、焼ヶ岳という火山があってね、それが昨日から鳴り出したのです」
「左様でございますか、道理で、空気に異常があると思っておりました、灰もずいぶん降っているようでございますね」
「みんな心配しているが、たいしたことはないから安心なさい」
「はいはい。では火を噴《ふ》く山が近辺にあるのでございますね。わたくしも、ある学者か
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